2008年1月25日金曜日

経営者の利益を図る洗脳教育 - 北尾氏の『何のために働くのか』に思う

昨日、書店で手に取った本は北尾さんの本『何のために働くのか』

5分ほどの立ち読みでしたが、内容にはかなりがっかりした。氏曰く、

①自己実現のために働くというのは西洋的な考えで、日本にはなじまない。

②仕事という漢字は、『仕』も『事』も「つかえる」と読める。従って、天につかえる気持ちで働かないといけないとのこと。

5分程度の立ち読みでしたので、北尾氏の全てのメッセージを読み取れたわけではありませんが、皆さんどう思われますか?

北尾氏の言うことの全てを否定する気は毛頭ございませんし、金銭のみを動機に全てが動いている社会が美しいとも思いません。

但し、北尾氏の意図とは全く関係無しに、金銭ではなく、天に仕えることを動機に求める従業員が増えれば増えるほど、「労働力を低コストで使う」ことができるという、大きなメリットが(北尾氏を含む)経営者側に生じることは紛れも無い事実でしょう。

その点は、著者である北尾氏も、読者も当然のこととして意識すべきでしょう。仮に北尾氏が自分の利益のために従業員を洗脳しようとしているのではなく、本当に心底そう思っているのであれば、なおのこと、潜在的な利益相反がある旨を予め断って、自分の誠実なスタンスを強調しておくべきではないでしょうか。

個人的にはあまりにも馬鹿馬鹿しいので、わざわざ買って読む気になど到底なれませんでしたが、amazonの評価では、なんと星4つ半。北尾賛歌のオンパレードですね。日本の平均的なサラリーマンの意識ってこんなものだろうか?

「仕事は金じゃない」だとか、「面白くない仕事でも頑張って続ければいつか報われる時が来る」、「隣の芝は青く見えるもんだ」、「会社には世話になった」等など、いずれも、管理者側、経営者側が労働者を長期間、低コストで使うためにデッチ上げられた根拠の無い神話でしょう。

そのような神話を皆が信じて、皆が幸せになれた時代はとっくの昔に終っています。今の会社が立派でも、10年後にどうなっているのかはさっぱり分かりません。昔であれば20台の時に低賃金で馬車馬働き、儲けの大半を50台、60台のオッサン達に搾取されても、自分が50台、60台になった時に今度は自分が搾取する側になることによって、最終的には満足できる仕組みがワークしていました。

つまり、若い頃に搾取されていても「仕事は金じゃない」、他の会社でより給料の高い仕事があっても「隣の芝が青く見えているだけ」「会社には世話になっているから」などと自分に嘘をつきつづけると、自分が50代になれば今度は若年層から搾取するというご褒美を手にすることが出来て、「やっぱり続けて良かった」「長い間会社に世話になった。いい会社だった」と言えるようになったわけです。経営者に洗脳された労働者もそれなりに幸せになれる時代だったのです。

ところが、右肩上がりの成長が終わり、グローバルな競争の波にさらされるようになった今、従来型の神話を信じて真面目に働いていても幸せになれる保証など、どこにもありません。マクロ的に見ても、BRICSの台頭による日本の相対的な地位の低下や、少子高齢化による絶対的な労働人口が減少が見えている中、今後日本が生き残っていくためには、限られた労働資源の最適配分は必須といえましょう。

労働資源の最適配分が実現されるためには、現在の労働対価(経験を積むことによる労働者自身のヴァリューアップを含む)を基準として常に調整が行われるべきでしょう。そうしないと、低収益、低成長産業に労働資源がstuck することになり、日本経済の将来性を低下させることになります。

その観点から言うと、「仕事は金じゃない」等と言って、労働者を洗脳し、労働資源の最適配分を邪魔するなんて一種の犯罪ですね。北尾氏にそのような意図が無かったとしても、時代の変化を全く無視しているという点で非常に残念です。

日本の経営者が従業員に本音で語る時代はいつになったら来るのだろうか?

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